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最新記事【2008年07月13日】

経済・社会政策部 主任研究員 平田 薫

 判決から早くも5カ月になりますが、日本マクドナルドが店長を管理監督者として扱い残業代を支払わなかったのは違法だとして、東京地裁が残業代と付加金の支払を会社に命じた「日本マクドナルド事件判決」は、まだ記憶に新しいところではないでしょうか。判決を受け、新聞各社は一斉に「店長は非管理職 東京地裁が残業代認定」などと報じ、また類似事案が出て、「名ばかり管理職」「偽装管理職」問題がクローズアップされました。

http://www.murc.jp/politics_c1/search_now/2008/07/sn_080707.html

 しかし、ここには1つの間違いがあり、また、1つの論点のずれがあります。

 "1つの間違い"とは、裁判所は、原告店長は「管理監督者」には当たらないとしたのであって、マスコミが言うように「管理職」でないとは言っていないということです。よくよく混同されるのですが、この2つは同じものではありません。

 前者の「管理監督者」は、労働基準法第41条2号の「事業の種類にかかわらず監督又は管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)」のことで、労働基準法上で確立した概念です。これにあたる者については、同法の定める労働条件の最低基準である労働時間の規制(1週40時間・1日8時間)や休憩及び休日の規制を適用除外しても構わないことになります(深夜業と年休に関する規制は除外されません)。管理監督者の範囲は、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限定されなければならない」とされ、工場長や部長が例に挙げられますが、「資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務様態に着目する必要があり、賃金等の待遇面についても留意しつつ、総合的に判断」(厚生労働省の通達より)すべきものとされています。こうした基準に照らし、「管理監督者ではない」と判断されたわけです。

 一方、後者の「管理職」というのは、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であって、法的な裏付けを持った概念ではありません。

 したがって、会社が「店長は管理職だ」というならば原告店長は「管理職」となりますが、法的には管理監督者ではないと判断されたため、「残業代を支払え」となったわけです。

 次に、"1つの論点のずれ"というのは、原告店長が求めていたのは残業代の支払いだったのか、ということです。

 確かに、裁判は原告店長の管理監督者性とそれが否定された場合の残業代請求といった形で争われましたが、原告が第一に求めたことは、労働契約上、法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないことの確認でした。

 いくつかの新聞が原告店長の話として報じたように、原告店長は、「残業が月百時間を超え、二カ月間休めなかったこともある」といい、「午前四時半に自宅を出て」「帰宅は午前零時すぎ」「三、四時間の睡眠」という働き方のなかで、「手にしびれが走るようになり、医師から脳梗塞の可能性を指摘され」、「命の危険も感じるようになった」といいます。

 原告店長の訴えの第一は、残業代ではなくて、健康と命、家族との時間だと思われるのですが、裁判では「時間外割増賃金を請求している以上、これに加えて、上記の確認を求める法的な利益はない」として第一の請求は退けられ、新聞の見出しも残業代支払いが中心となってしまいました。

 このような健康と命、家族との時間の問題が、残業代の話にすりかわってしまうという構図は、「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」導入をめぐる議論でも見られました。

 導入反対の旗印となった「残業代ゼロ法案」という言い方が示すように、一般には、時間外割増賃金の支払いの適用除外が大問題であるかのように言われましたが、労働問題に詳しい有識者等の間では、管理監督者よりも幅広いホワイトカラーに対し、労働時間規制が適用除外されることで、無制限な長時間労働や健康被害、過労死につながるのではないかが懸念されていました。

 「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」は、時間外割増賃金の適用除外と、労働時間規制の適用除外の両方を実現しようとする制度となっていますが、この2つが持つ意味は大きく異なります。また、2つを共に実現しようというのは、欧米の類似制度にもみられない性格です。「日本版」がお手本にしたというアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」は時間外割増賃金の適用除外、イギリスの「個別的オプトアウト」は労働時間規制の適用除外を認める制度です。なお、イギリスは「個別的オプトアウト」で週48時間の労働時間規制を適用除外しても、休息期間についての規定(24時間毎に少なくとも11時間)により、労働時間の上限は13時間に規制されます。アメリカは別として、多くの先進国がホワイトカラーの労働時間に上限規制を設けています(注1)。

 長時間労働が問題となっている我が国のホワイトカラーについて、労働時間の上限規制を撤廃することには慎重を期すべきと思われます。ただし、「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入自体は、もしそれが、対象者を本来の意味での管理監督者や裁量労働制適用者、すなわち、「重要な職務と権限を有しており、厳格な時間管理を受けず、一般の労働者と比較して優遇された地位にある者」、自分の意志によらず限界を超えて働かされることのない者に限定してなされるのであれば、かつ労働時間の実態がきちんと把握され、健康被害の防止やワーク・ライフ・バランス等の観点から(ときには「もっと働きたい」という本人の意志を抑えてでも)適正な水準にする措置が実効性をもって講じられるのであれば、労働者にも企業にもプラス面が大きいものになると考えます。逆に、もし、管理監督者よりも適用範囲が広く、裁量労働制よりも融通の効く制度として取り入れようとするならば、それは労働者にとって不安・不満の大きいものとなるだけでなく、企業にとっても大きな経営リスクを抱える結果となるでしょう。

 ホワイトカラーの時間外労働をどうするかについては、時間外手当の適用除外と労働時間規制の適用除外とを分けて考え、また、自分で労働時間を決められ処遇も高いような一部のホワイトカラーについては、賃金計算の基礎となる労働時間と、健康管理の観点から規制する労働時間とを分けて考える、というのがひとつの解となるのではないでしょうか。

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