「長寿医療制度」
作家の井上ひさしさんは、本名を「廈」と書く。あまりに誤読されるので、一時やたらとペンネームを変えたという(「改名は三文の得」)▲
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/chijiku/ren018200804034545.html
原公林(原稿早し)から来た林原公一(はやしばらこういち)。原稿直しは風の早さ、と風早直志(かざはやなおし)。果てはクィックリー井上。「遅筆堂」を名乗る井上さんには淡くも切実な願望だったろう。そういえば以前、知り合いの演劇人が、初演間近なのに脚本が届かないと頭を抱えていた。名は体を表すとはいえ、さすがに名さえ変えれば体もと都合よくはいかぬようだ▲
井上さんも誰よりそれをわかっていて、改名を考えるたび英哲学者の教えが頭をかすめ、ためらったとか。「正しい言葉には必ずそれに対応した存在がある」と。作家なら値打ちを決めるのは脱稿の早さより名前より、書いた中身。これもほかならぬ井上さん自身の実践だ▲
始まったばかりの後期高齢者医療制度を通称「長寿医療制度」にする。福田康夫首相がそう指示した。人生の残り時間を思わせる冷たい響きの「後期」の枠に七十五歳以上を押し込め、保険料滞納には厳しい。噴き出す悲鳴への答えが安直な看板のかけかえとは▲
ホワイトカラーエグゼンプションは、残業代ゼロ法案の別称が実態を広く知らせた。一方で、治安維持法を想起させる共謀罪をテロ等謀議罪に言い変える動きには、退却を転進と強弁して真実を覆い隠したかつてが重なる。「長寿医療制度」がどちらかは自明だろう▲
西洋の格言はいう―真実の言葉はつねに装飾のない単純なものである。