あなたはだらしな系、それとも、きっちり系?
著者のひとり、エリック・エイブラハムソンは名門ビジネススクール、コロンビア大学ビジネススクールの教授である。そのエイブラハムソンが、きっちり系、だらしな系を事例をあげ、対比しながらながら、「だらしない」ことのメリットを解説した一冊。ただし、だらしないのには病的なものもあり、それは除いて議論している。
http://people.weblogs.jp/books/cat44408/index.html
本書でだらしな系のメリットの根拠となることは、コストと柔軟性である。最初に、トランプのメタファが紹介されている。2組のトランプがある。1組はよく切ってある。もう1組は絵柄ことに数字の順に並べられている。それを2人の人間に渡し、特定の4枚のカードの絵柄と数字を告げてどちらが早く見つけ出せるかを競わせる。当然、並べてある方だ。並んでいるなかから探し出すのに16秒、並んでいない方から探し出すには35秒かかった。
ここで面白い指摘をする。並んでいないトランプをトランプ愛好家に協力して並べてもらうと140秒かかるというのだ。
つまり、トランプは並んでいないという日常的な状況を前提にすると、結果が逆転するというのだ。
さらに、面白いのは、抜いた4枚のカードを並べている組の元の位置に戻すには16秒かかるという。つまり、並んだ状態を前提にしても、35秒と32秒ということで、ほとんど変わらない。
このように完全性を保つにはコストがかかり、必ず、きっちりとしている方がよいということはないというのが本書の主張。これを事例、歴史、だらしな系の組織など、いろいろな視点から体系的に250ページにもわたり書いているのだ。
本書で指摘されているだらしな系とキッチリ系の比較は以下のようなものだ(前者がだらしな系、後者がキッチリ系)
・素早く、劇的に、多様に、より少ない労力で状況に適応し、変化することができる
vs 需要の変化や予期せぬ出来事、新たな情報に対して融通がきかず、対応が遅れがちである
・異質なものを簡単に内側に取りこむことができる
vs 内に含めるものの量や種類を制限する。有益なものや、不可欠なものも排除してしまうことがある
・環境や情報や変化となじみ、そこから有益な影響を受けられる
vs 外部からの影響を遮断して、決して相容れることがない
・さまざまな要素に触れ、変化を促し、問題を顕在化させ、新たな解決策を導き出してくれる
vs 未知の存在や不測の事態を嫌い、それが現れると、即座に排除しようとする
・比較的少ない労力で目標を達成することができる。労力の一部をアウトソーシングすることができる
vs システムを維持するために常に大きな労力が必要になる。その労力はすべて自分で背負いこまなければならない
・大きく異なる要素でも内に組み込むことができるため、攻撃や妨害や模倣に対する抵抗力がある
vs 強さと弱さを併せ持ち、たやすく破壊されたり、失敗をおかしたり、混乱したり、模倣されたりする
若干、ものの言いようだという気もしなくはないが、確かにこう考えると、だらしな系が効果を発揮すビジネスやマネジメントというのは思い当たるものがあるだろう。もちろん、本書の中にも、運行スケジュールのない航空会社、POS管理しない書店、設計図なしでビルを建てる建築家など、いろいろな事例が紹介されている。
ただし、この本の結論は、だからだらしな系ということではない。バランスが重要だというある意味で当り前の結論だ。当たり前ではあるのだが、意外とこのバランスというのは考えられないことが多い。どこまでやるかという判断は難しいからだろう。その点について明確な示唆はない。この点が多少不満であるが、ビジネスマンとしてもマネジャーとしてもこのような視点を持つことは重要だろう。
エイブラハムソンも指摘しているように、整理整頓をするというのは思考停止を引き起こす。つまり、何も考えずに、きっちりした方がよいと無条件に考えがちである。この点について考えなおすきっかけになるだけでも貴重な本だ。
特に、マネジャーには一読をお勧めしたい。