リーダーシップの質的変化
近年広く用いられているコンピテンシー理論のパイオニアで、ハーバード大学の心理学部教授を長年務めたデイビッド・C・マクレランドは、人間のモチベーションを研究し、それが4つに大別されると論じている。それらは①達成動機、②パワー動機、③親和動機、④回避動機の4つであり、人間の行動は、多かれ少なかれ、このどれかの基本的な欲求に引きずられるとしている。
http://leadershipinsight.jp/2007/03/post_57/
達成動機とは、自分がよいパーフォーマンスを発揮し、自らがタスクを達成することに対する欲求である。達成動機の強い人は、あくまでタスクの達成に関心があり、それによって他人がどう評価するかということへの関心は薄い。これに対してパワー動機とは、何らかの形で人に影響を与えることに満足を感じる本来的な欲求のことであり、マクレランドらの研究によると、政治やビジネス界はもちろんのこと、芸術や宗教、科学など、さまざまな分野のリーダーにパワー動機の強い人が多いという。親和動機は、人に好かれたい・仲良くしたいという欲求であり、パワー動機とは異なるが、やはり他人との関わりに関する動機である。
人間は、多かれ少なかれ、これらの4つの基本的な動機を持っているが、人によってこれらの動機に強弱があり、行動に違いが出るという。
興味深いことに、最近のリーダーに関する研究では、このパワー動機に変化が現れているという。90年代以降、パワーのあり方が急速に変わってきているというのだ。それ以前は、優れた業績を出すチームのリーダーたちは、「リーダーシップとは他者に対してなすこと」という姿勢でいた。わかりやすくいえば、「私決める人、あなたやる人」ということだ。
これに対して、90年代の追跡調査では、チームや組織などからパワーを引き出すタイプのリーダーが好成績を上げているという。彼・彼女らは、「リーダーシップは他者とともになすこと」と考え、「一緒に考え、行動する」ことを重視するようになってきているという。
これはアメリカのホワイトカラーを対象とした研究結果だが、日本でもこのようなタイプのリーダーが増えてきているように思われる。たとえば、これまでに破綻した数々の大型リゾートの再生を手がけて成功している星野リゾートの社長、星野佳路氏はその代表的な一人ではないだろうか。星野氏は、90年代に親から継いだ星野リゾートがバブル崩壊後に危機に瀕した時、自分のやり方を前に出し、アメリカンスタイルの経営で危機を乗り切ろうとした。典型的な「私決める人、あなたやる人」というタイプだった。しかし、それに反抗したベテラン社員が次々に退社し、社員の三分の一を失うという苦い経験をした。その退社を食い止めようと苦闘した経験が「残った社員が、財産」との信念となり、「一緒に考え、行動する」タイプに変わってきたという。昨年の日経情報ストラテジー誌のインタビューで、氏は次のように語っている。
「経営者が自分の目指す場所に無理やり連れていこうとしても、社員は動かない。大事なことは『自分たちが本当にこうなりたい』という像を社員が描けるようにすること。それができる場を提供するのが自分の役割だ」日経情報ストラテジー(2006.6)。
コンビニチェーン、ローソンの社長、新浪剛史氏も、ある日、自分の右腕となって働いてきた社員から「あなたの言っていることはわからない」と言われ、自分との意識の差に愕然としたという。その後、これまでのトップダウン式のスタイルを改め、社員の考え・やる気を引き出すファシリタティブなスタイルに変わろうとしている。
このようなリーダーシップの変化は、時代の要請ではないだろうか。グローバル化が進んで価値観が多様化し、インターネットなどを通じた豊富な情報で、フォロアーの意識が大きく変化している。また以前より問題は複雑化し、リーダーは、自分より専門性が高く、自律した人たちを扱わなければならなくなっている。
そこで求められる新しいリーダーシップとはなんだろうか? 従来同様、情熱とビジョンがあり、優れた判断力でチームを勝利に導く力は不可欠に違いない。それに加えて、以前より言葉によるコミュニケーション能力が求められるようになってきたのではないか。特に日本人は、国際的に見ると考えを言語化し、交流することを嫌う傾向があり、そのためのトレーニングを十分にしていない。従業員に考えさせ、言語化して伝えさせるスキル。触発し、言葉を引き出し、行動につなげる技が、以前よりもリーダーに求められる時代になっていると私は考える。