残業代ゼロは誰のため(1)ホワイトカラー・エグゼンプションの影響
最近のサラリーマンの関心事は、財界が執拗に導入しようとしているホワイトカラー・エグゼンプション(イグゼンプション)だろう。これは、労働基準法の1日8時間を超えて働かせる場合、1時間あたり25%以上、割り増し賃金を支払わなければならないという規定からホワイトカラー(事務労働者)を適用除外しようというものだ。
http://www.news.janjan.jp/government/0701/0701160177/1.php
政府の労働政策審議会でも反対意見が続出したしろもので、一方的に使用者側が利益を受けることとなる。これが導入されれば、管理職でない事務労働者の残業代は、ゼロとなる。働きざかりのホワイトカラー労働者には、相当な打撃となるのは明らかだ。残業代が入ることを前提にして生活設計しているひとが、かなり多いからだ。
では、どのくらい収入が減るのか。労働総研の調査・試算では、年収500万円の労働者で月の残業時間が80時間のひとは、176万円の減収。40時間の残業時間でも88万円の減収。800万円の年収で月の残業が80時間では、282万円の減収。40時間でも141万円の減収となる。
要するに月80時間の残業の場合は、26%、年収がダウンすることになる。また、年収400万以上の労働者に適用された場合、対象は1,013万人。サービス残業分を含めると、1人当たり114万円、総額11兆6000億円が、企業の利益となるという。だから、財界は、何としてもこれを導入しようとしているのだ。
しかし、ここにきて、選挙を控えた自民党など与党は、サラリーマンを敵にまわすな、ということだろうか、年収の適用を900万以上にすれば、対象は、20万人とか言い始めた。何とかして、影響を小さく見せようとしている。だが、検討されている法案では、政令で適用範囲を変更できることになっており、導入されれば徐々に低収入の部分まで拡大されるのは、必至だ。労働者派遣法が最初制定されたときには、13の専門業種に限定されていたものが、10数年後には、ほとんど全面解禁されてきたのと同じことだ。
ただでも、日本の企業は、ただ働きをさせている。ここ数年の残業代不払い(サービス残業)を労働基準監督署が摘発し、是正させた記録を見てみよう。2003年度は、1184社、対象労働者19万人、是正総額239億円、1人あたり12万円。04年度、1437社、対象労働者17万人、是正総額226億円、1人あたり13万円。05年度も1524社、対象労働者17万人、是正総額233億円1人あたり14万円。となっている。
内部告発などで是正されてもこの程度だ。これは、製造業などの労働者を含めたものだが、日本の企業の労働実態を熟知している識者の話では、「この10倍以上が常態ではないか」と言う。このような実態があるとき、どのようなことが起きるのか。残業代を払わなくていいことになれば、仕事が終わるまで、体力が続く限り働かされる可能性が出てくる。EU(ヨーロッパ連合)のように、働かない時間を1日11時間以上与えなければならないということになれば、歯止めはあるが、日本の場合は何の規制もない。
サービス残業の合法化と過労死が蔓延するだろう。雇用形態や労働形態(労働時間も含めて)は、働く人の生活パターンを一変させる。そして、そのような労働法制は、労働側と使用者側の力関係で決まっていく。今日のように、労働側に力がないときは、必然的に使用者有利の労働法制がつくられていく。
1月15日、春闘本番よろしく、日本経団連と「連合」の会談が行われたが、労働側は格差社会の是正を訴え、賃金の底上げを求めたが。労働組合の組織率が20%を切り、ストライキもほとんどない実態では、結果は自ずと明らかだろう。次回は、労働時間や雇用形態という労働法制の規制緩和が日本ではいつごろから、どのようなことを対象として行われてきたのかを見てみよう。(つづく)
(堤和馬)